外伝 カフク・アバラヤ編
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山の神、火の神、水の神、お米粒の神……。 | ||
ここ、八百万の神々の住む異界には、ありとあらゆる神が存在する。 | ||
そのほとんどは下界の人々から頼られ、願いを叶えたり心の支えとなる神ばかりであるが……。 | ||
中にはそうでないもの……人から疎まれる神も存在する──。 | ||
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貧乏神のカフク・アバラヤも本来はその一柱。 | ||
人や家にとり憑いて貧困をもたらす彼女を崇める人などいないはずだった。 | ||
しかし、カフクが憑いた母娘は彼女を有難がって拝み続けた。 | ||
その無心の祈りが──奇跡を呼んだ。 | ||
800万という膨大なご利益ぽいんとがカフクへ加算され、彼女は喧嘩神輿へ参加したのだ──。 | ||
病(栄養失調)に伏せる母へ何か温かい食べ物を贈る為に……。 | ||
結局カフクは敗退したが、その願いは商いの神、トミ・コトブ──。 | ||
私の名はジョゼフィーヌですわ! | ![]() | |
……ジョゼフィーヌによって叶えられた。 | ||
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![]() | ト……ジョゼフィーヌ様、あの母娘へはもう、使者を立てて頂いたのでしょうか? | |
おふこーすですわ。舶来のごちそうに秘伝の商い虎の巻を使者を通じて既にお送りしてますわ! | ![]() | |
![]() | おお、なんと! そ、それは有り難い! それでふたりは一体どのような顔をされていましたか? | |
そこまでは知りませんわ……って、どうして貴女がそれを知らないんですの? | ![]() | |
![]() | 私は貧乏神……。行けば必ずふたりの身の上に良からぬことがおこりましょう……。 | |
カフクはうつむき泣き始める。 | ||
そんな彼女を見てトミは大きくため息をつき、 | ||
はぁ……。気になるのなら見に行けば良いのですわ。そんなイジケた根性が不幸を呼ぶのです! | ![]() | |
と、カフクの手を取り母娘の住む家へと向かう。 | ||
さ、着きましたわ! | ![]() | |
カフクの手を引くトミは小奇麗な屋敷の前で立ち止まった。 | ||
![]() | ……と、仰いますと……? | |
貴女がとり憑いていた家に着いたと言っているのですわ! | ![]() | |
![]() | ……ええ! こ、ここが!? 木枠だけの障子は? 隙間だらけの壁板や穴だらけの屋根は? | |
私の商い虎の巻に習って修理したのでしょう。「住まいや身なりを整える」……基本ですわ! | ![]() | |
![]() | なるほど、見違えるようです……。しかしこれでは中の様子が……。ペロっとな……。 | |
と、カフクは口で湿らせた人差し指でズブリと障子に穴を開ける。 | ||
キャー! 貴女、人の話聞いてまして!? せっかく貼り替えた障子になんてことを! | ![]() | |
![]() | は!? 私、また不幸を一つ……。 | |
とカフクは再びうつむく。 | ||
まぁ、やってしまったものは仕方ないですわ。さ、その穴からふたりの顔でも。 | ![]() | |
![]() | ……そうですね。では……。 | |
とカフクは障子の穴から中の様子を伺う。 | ||
![]() | ……うう。母上も元気になられて……。おお、娘もあんなにころころとよう笑っている……。 | |
すっかり元気になったふたりを見て、カフクは涙を流して喜ぶ。 | ||
どうやら商いも順調な様ですわね。ま、これも全て私のおかげ──。 | ![]() | |
![]() | おお! 私に感謝を……。全ては私のおかげだと……ふたりともあんなに手を合わせて……。 | |
……まぁ、今回は確かに貴女の力かもしれませんわね……。私を動かしたのですから……。 | ![]() | |
![]() | ……私、もう何も思い残すことはございません。帰りましょう、トミ……ジョゼフィーヌ様……。 | |
と、カフクはその場から去ろうとするが……。 | ||
貴女! ここまで来たのですから、あのふたりの前に姿のひとつでも見せたらどうですの!? | ![]() | |
![]() | いえいえいえいえ……。私はそんな……。 | |
何を言っているのです! 神たるもの、要所要所で人の前に立ち、有難がられるものですわ! | ![]() | |
言いながら、トミは強引にカフクの手を引いて、家の中へと踏み込んだ。 | ||
──刹那、二柱の持つ神力がほとばしった。 | ||
貧困を呼ぶ神と富を呼ぶ神──。 | ||
相反する二柱の神力がひとつ屋根の下でぶつかる時──神すら想像出来ぬ事態が起こる! | ||
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![]() | ……一体何が!? 何が起こるのでしょう! | |
わ、私に聞かないで頂けます?! でもきっと何かよからぬことが……。 | ![]() | |
そしてふたりの目の前で……。 | ||
どんがらがっしゃん! | ||
と母娘の住む家が骨組みごと崩れた! | ||
![]() | ギャー! せっかくのお家が! 私が貧乏神なばっかりに! ふたりの幸せが! | |
目の前で起こった大参事に、カフクは我を忘れて取り乱す。 | ||
![]() | ごめんなさい、ごめんなさい……。私、このお腹を切って責任をおおおお。 | |
あ、貴女何を仰るの! 神の切腹なんて聞いたこともありませんわ! | ![]() | |
![]() | でもあのふたりは私のせいで……。私は一体どうしたらいいのでしょう? ねぇトミ様! | |
私はジョ……まぁいいですわ。とにかく落ち着いて! まずはふたりの安否を確かめるのです! | ![]() | |
![]() | うう……わ、わかりました。 | |
カフクはようやく我に返り、瓦礫の中に母娘の姿を探す。 | ||
![]() | やや! どうやら無事のようですわ。それどころか、何かを見つけて喜んでいる……。 | |
ほら御覧なさい……って、喜んでいるんですの? ふたりが? どうして? 何を見つけたのです? | ![]() | |
![]() | 眩しい……あれは一体? 壺の中から光る丸い草履の様な……食べ物ではなさそうですが……。 | |
大判小判ですわ! ザックザックではないですか! あれだけあれば三代先までウハウハですわ! | ![]() | |
![]() | あれが……。私、初めて見ました……。 | |
家が潰れて金が出るなんて、そんな詐欺みたいな話……私、信じられませんわ。 | ![]() | |
大災難のあとの大僥倖──。両極端なふたりの神が、またひとつ、奇跡を起こしたのである……。 |
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